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福岡地方裁判所 昭和60年(ワ)2518号 判決

原告(反訴被告) 太平住宅株式会社

右代表者代表取締役 竹村平也

右訴訟代理人弁護士 鶴丸富男

被告 田中建設株式会社

右代表者代表取締役 田中薫

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 樋口信弘

被告(反訴原告) 有限会社 友清白蟻管理

右代表者代表取締役 友清重美

右訴訟代理人弁護士 河津和明

主文

一  被告田中建設株式会社、同鍋島利雄、同浦川力及び同鹿毛幸男は、連帯して、原告に対し、金二四七万四五〇〇円及びこれに対する昭和五九年四月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告有限会社友清白蟻管理に対する本訴請求及び反訴原告の反訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告田中建設株式会社、同鍋島利雄、同浦川力及び同鹿毛幸男との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告らの負担、その余は各自の負担とし、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)有限会社友清白蟻管理との間においては、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その九を原告(反訴被告)の負担、その余を同被告(反訴原告)の負担とする。

四  本判決第一項は、前記被告四名に対し一括金六〇万円の担保を供して、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴請求について)

一  本訴請求の趣旨

1 被告らは、連帯して、原告に対し、金二四七万四五〇〇円及びこれに対する昭和五九年四月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 1項につき仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴請求について)

一  反訴請求の趣旨

1 反訴被告は、反訴原告に対し、金二七万三七二五円及びこれに対する昭和五八年七月二七日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  反訴請求の趣旨に対する答弁

1 反訴原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴請求について)

一  本訴請求原因

1 原告は、建築の請負、宅地建物販売等を業とする会社である。

2 原告は、被告田中建設株式会社(以下「田中建設」という)及び同有限会社友清白蟻管理(以下「友清白蟻管理」という)との間で、原告が他から請負う建築工事のため、大要左記内容の「太平住宅株式会社専属工事店契約」(以下「本件専属工事店契約」という)を締結した。

(一) 締結日

被告田中建設 昭和五〇年六月一〇日

被告友清白蟻管理 昭和四七年八月三一日

(二) 契約内容

① 右被告らは、原告の専属工事店として、原告の指定する建物建築に従事する(専属工事店契約第一条)。

② 専属工事店は、原告から所定の「請書」により指定された建築を請負う(同第三条)。

③ 右請負工事は原告の指示により施工完成し、工事の不完全に起因した建物の瑕疵に対しては、専属工事店において建物の引渡後といえども修理又は損害賠償の責を負う(同第一六条)。

3 被告鍋島、同浦川及び同鹿毛は、原告と被告田中建設との本件専属工事店契約締結に際し、被告田中建設の原告に対する右契約上の一切の債務を連帯して保証した。

4 原告は昭和五〇年四月三〇日、左記のとおり住宅の建築工事を請負い、本件専属工事店契約による請書により、建物の新築工事を被告田中建設に、同建物の白蟻駆除予防工事を被告友清白蟻管理にそれぞれ請負わせ、工事を完成して注文者に引渡した(この完成建物を以下「本件建物」という)。

(一) 注文者 山田晃

(二) 建築場所 松浦市今福町北免字火立場一九八九―三

(三) 構造 木造セメント瓦葺二階建一棟一戸

(四) 用途 専用住宅

(五) 面積 延一四二平方メートル七四

(六) 請負金 一一九〇万円

(七) 引渡日 昭和五〇年一一月二九日

5 建物の瑕疵について

(一) 右完成した本件建物には、被告田中建設の不完全な工事により、完成直後から雨漏りが発生した。

(二) 被告友清白蟻管理の白蟻駆除予防工事も不完全であったため、右雨漏りにより白蟻を誘発し、白蟻被害は広範囲に及び白蟻が本件建物の主要構造部分を侵蝕し、建物構造の一部に危険な状態が生じた。

6 本件建物の修補工事

(一) 前記注文者訴外山田晃(以下「訴外山田」という)は、原告に対し、昭和五八年七月一一日以降右修補工事を請求してきた。

(二) そこで、原告は右修補工事を施工することとし、被告らに対し、同年八月一〇日頃、右工事の必要性、工事内容、費用見積等を内容証明郵便により通知した。

(三) 原告は訴外有限会社山北建設(以下「訴外山北建設」という)との間で、同年九月一六日、右修補工事を目的とする請負契約を締結した。

(四) 訴外山北建設は右修補工事を同年一一月二五日に完了した。

(五) 右修補費用額は二四七万四五〇〇円であった。

7 よって、原告は、被告田中建設及び同友清白蟻管理に対し、本件専属工事店契約に基づき、被告鍋島、同浦川及び同鹿毛に対し、前記連帯保証契約に基づき、前記工事瑕疵の修補に代わる損害賠償金二四七万四五〇〇円及びこれに対する本件訴状送達日の後である昭和五九年四月一五日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1 被告田中建設、同鍋島、同浦川及び同鹿毛(以下「被告田中建設外三名」という)について

(一) 本訴請求原因1ないし3の事実は認める。

(二) 同4のうち、被告田中建設が原告から原告主張のとおりの新築工事を請負い、工事を完成した事実は認める。

(三) 同5(一)の事実は争う。

(四) 同5(二)の事実は不知。

(五) 同6(一)、(二)の事実は認める。

(六) 同6(三)ないし(五)の事実は不知。

2 被告友清白蟻管理について

(一) 本訴請求原因1、2の事実は認める。

(二) 同4のうち、被告友清白蟻管理が原告から原告主張のとおり本件建物の白蟻駆除予防工事を請負い、工事を完了したこと。

(三) 同5(一)の事実は認める。

(四) 同5(二)のうち、雨漏りにより白蟻を誘発したことは認めるが、白蟻駆除予防工事が不完全であったことは否認し、その余の事実は不知。

(五) 同6(一)(二)の事実は認める。

(六) 同6(三)ないし(五)の事実は不知。

三  抗弁

(除斥期間の経過)

1  被告田中建設外三名について

(一) 被告田中建設は、原告に対し、昭和五〇年一一月二九日に本件建物を完成し引渡した。

(二) 昭和五五年一一月二九日は経過した。

2  被告友清白蟻管理について

(一) 被告友清白蟻管理は、原告に対し、昭和五〇年九月一一日本件建物の白蟻駆除予防工事を完了した。

(二) 昭和五五年九月一一日は経過した。

四 抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実は認める。

2  同2(一)の事実は否認する。工事が完了したのは昭和五〇年一一月二九日である。

五 再抗弁

(除斥期間内における権利行使)

1  本件建物には、被告田中建設の不完全な工事により完成直後から雨漏りが発生したので、原告は、右被告に対し、以後数回に亘りその修補を請求した。

2  右雨漏りに伴い本件建物に白蟻被害が徐々に発生していたので、原告は、昭和五三年中に、被告友清白蟻管理に対し、本件建物の白蟻駆除をなすよう請求した。

六 再抗弁に対する認否

1  被告田中建設外三名について

再抗弁1の事実は争う。被告田中建設は、本件建物完成引渡の三か月位後に、原告から雨漏り個所の修補請求を受けたのみである。

2  被告友清白蟻管理について

再抗弁2の白蟻駆除の請求を受けたことは否認する。

七 再々抗弁(被告田中建設外三名)

被告田中建設は、原告から前記雨漏り個所の修補請求を受けたので、直ちにその修補をした。

八 再々抗弁に対する認否

争う。被告田中建設のなした修補工事は不完全であった。

(反訴請求について)

一  反訴請求原因

1 反訴原告は、反訴被告から昭和五八年七月頃、代金一平方メートル当り二五〇〇円として本件建物の白蟻駆除予防工事を請負った。

2 反訴原告は、同年七月二六日右工事を完了した。

3 よって、反訴原告は、反訴被告に対し、右工事代金二七万三七二五円(二五〇〇円×一〇九・四九)及び工事完了の翌日である昭和五八年七月二七日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1 反訴請求原因1の事実は争う。

反訴原告主張の工事は、本件専属工事店契約による施工が不完全であったために白蟻駆除予防の効を奏せず、白蟻の発生その他被害が発見されたことにより、反訴被告と協議して補修したにすぎず、反訴被告からの新しい工事注文によるものではない。

2 同2の事実は認める。

三  抗弁

仮に前記工事が新たな発注によるものであるとしても、その時点で、反訴原告は反訴被告に対し、工事費用は無償とする旨の約束をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

五  再抗弁

1 反訴原告の本件工事代金放棄の意思表示は、反訴原告と反訴被告との間に本件建物の防蟻工事に関し将来紛争が発生することを解除条件としてなされたものである。

2 反訴原告と反訴被告との間に本件建物の防蟻工事に関し紛争が発生した。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

(本訴請求について)

一  本件専属工事店契約の成立

1  原告が建築の請負、宅地建物販売等を業とする会社であること、原告と被告田中建設及び被告友清白蟻管理間において、原告が他から請負う建築工事のため本件専属工事店契約を締結したことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  被告田中建設と原告間の本件専属工事店契約締結の際に、被告鍋島、同浦川及び同鹿毛が被告田中建設の原告に対する右契約上の一切の債務を連帯して保証したことは、原告と右被告らとの間に争いがない。

二  本件建物建築の請負

1  原告が訴外山田の注文により本件建物の建築を請負い、本件専属工事店契約による請書により被告田中建設が右新築工事を請負い、工事を完成して引渡したことは、原告と被告田中建設外三名との間に争いがない。

2  原告が右のようにして請負った本件建物について、本件専属工事店契約による請書による被告友清白蟻管理が白蟻駆除予防工事を請負い、工事を完了したことは、原告と同被告との間に争いがない。

三  本件建物工事の瑕疵の有無

1  《証拠省略》によれば、本件建物が原告から訴外山田に引渡された後の昭和五一年五月頃から、建物玄関上部や二階への階段壁面等に雨漏りが発生するようになったので、訴外山田から原告に対し数回に亘り修補要求がなされたが原告側に誠意がみられなかったこと、被告田中建設は、原告からの右雨漏り個所の修補請求を受けて、昭和五三年九月二七日にその修補工事をしたが、その後も雨漏りは完全に消失するに至らなかったこと、かくするうち、昭和五八年七月頃に至り、本件建物二階部分に家白蟻による被害が発見され、その被害の程度は相当広範囲に及び、天井の梁等主要構造部分まで侵蝕されていたこと、以上の各事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定の事実によれば、被告田中建設のなした本件建物新築工事については、前記雨漏りの原因となるような瑕疵があったものと認めるべきである。

しかしながら、本件建物につき被告友清白蟻管理がなした白蟻駆除予防工事については、それが不完全であったとは認め難い。即ち、被告友清白蟻管理代表者尋問の結果によれば、前記家白蟻の発生個所は天井や梁といった建物の上部に限られ、家白蟻の通常の発生経路である床下からの蟻道は現認できなかったことからして、右白蟻は前記雨漏りに誘発されて直接建物の上部に発生したものと認めるのが相当であり、他に、これを覆し、右白蟻駆除予防工事が不完全であったため、右白蟻が発生したと認めるに足りる証拠はない。

3  そうすると、被告友清白蟻管理がなした白蟻駆除予防工事が不完全であったことを前提とする原告の同被告に対する本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

四  本件建物の修補工事

1  訴外山田が原告に対し昭和五八年七月一一日以降本件建物の前記白蟻被害等の修補工事を請求したこと、原告が右修補工事を施工することとし、被告田中建設外三名に対し、同年八月一〇日頃右工事の必要性、工事内容、費用見積等を内容証明郵便により通知したことは、原告と右被告ら間に争いがない。

2  《証拠省略》によれば、原告は、訴外山北建設との間で、昭和五八年一〇月頃、右修補工事を目的とする請負契約を締結したこと、右山北建設は右工事を同年一一月二五日完了したこと、右修補費用は二四七万四五〇〇円であったことが認められる。

3  しかるところ、前示認定のような本件建物の雨漏りの状況及びこの雨漏りにより白蟻が誘発された事実を考え併せれば、右白蟻による被害は、被告田中建設の本件建物新築工事に存した前記瑕疵が拡大した予見可能範囲内のものとみるのが相当であるから、原告は、被告田中建設に対し、瑕疵担保責任に基づき、右被害をも工事の瑕疵としてその修補等を請求することができると解すべきである。

五  除斥期間の経過と瑕疵修補に代わる損害賠償請求権の消長

1  被告田中建設が原告に対し昭和五〇年一一月二九日に本件建物を完成して引渡したことは、同被告外三名と原告との間に争いがなく、原告が被告田中建設外三名に対し、本件訴状により前記修補に代えて修補費用二四七万四五〇〇円の損害賠償を訴求した時点では、右引渡後法定の除斥期間である五年を経過していたことが本件記録上明白である。

2  しかしながら、前示三1認定のとおり、原告は、昭和五三年九月二七日以前に、被告田中建設に対し本件建物の前記雨漏り個所の修補を請求したが、同被告が完全な修補をしなかったことが認められる。

3  ところで、注文者が右のように法定の除斥期間内に請負人に対し工事瑕疵の修補を請求した以上、その請求が裁判外のものであっても、右瑕疵の修補請求権はこれにより保存され、更に一〇年の消滅時効が完成するまで存続すると解すべきであり、また、瑕疵修補請求と修補に代わる損害賠償請求とはいずれも工事の瑕疵担保責任に基づき、後者は前者に代わるべきものであるから、瑕疵修補請求権が存続する限り修補に代わる損害賠償請求権も存続すると解するのが相当である。

しかるところ、原告は、前示のとおり、除斥期間内に瑕疵修補請求権を行使したが、被告田中建設において完全な修補をしなかったのであるから、原告の右瑕疵修補請求権は消滅せず、前記消滅時効が完成するまで存続するものであり、従って、右瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権も同様に存続するといわなければならない。

4  よって、被告田中建設は本件専属店契約に基づき、被告鍋島、同浦川及び同鹿毛は前記連帯保証契約に基づき、連帯して、原告に対し、前記修補に代わる損害二四七万四五〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の後である昭和五九年四月一五日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を免れないから、右義務の履行を求める原告の本訴請求は理由がある。

(反訴請求について)

一  反訴請求原因

1  反訴原告が昭和五八年七月頃反訴被告の求めにより本件建物につき白蟻駆除予防工事をなし、同年同月二六日に右工事を完成したことは、当事者間に争いがない。

2  反訴被告は、右工事は反訴原告の当初の白蟻駆除予防工事の瑕疵担保責任の履行としてなされたものである旨主張するが、右工事に瑕疵があったと認められないことは前判示のとおりであるから、昭和五八年七月の右工事は、反訴原、被告間の新たな請負契約に基づくものと認めざるを得ない。

二  抗弁について

前記新たな請負契約の時点で、反訴原告が反訴被告に対し、工事費用は無償とする旨の約束をしたことは当事者間に争いがないから、反訴原告は反訴被告に対し、右工事代金請求権を放棄する旨の意思表示をしたものと解される。

三  再抗弁について

1  《証拠省略》によれば、反訴原告の右工事代金請求権放棄の意思表示は、反訴被告との間で本件建物工事に関し将来紛争が発生し、反訴原告から反訴被告に対し損害賠償金を支払うべき事態に至ることを解除条件としてなされたことが認められる。

2  しかし、右解除条件が成就したといえないことは、本訴において判示したところから明白である。

3  よって、反訴原告の反訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

(結論)

以上のとおりであるから、原告の本訴請求中、被告田中建設外三名に対する部分は正当であるからこれを認容すべきも、その余は失当であるから棄却し、反訴原告の反訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

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